<犠牲者>

・お前さんが生まれるずーっと昔、ここいら辺は人も車も少なくて静かなところじゃった。
 ほら、あの道に最初の信号機ができた頃には、隣り町から車に乗ってわざわざ見物に来た物好きもいたんじゃ。
 この国の景気が上向くにつれて町の人口が増えて、猫も杓子も車を持つようになると、信号機の数も次第に増えていったんじゃ。役人は交通事故の犠牲者が出るとやっと重い腰を上げて信号機を立てていったんで、今では30間おきくらいに立っておる(1間=約1.8182メートル)。
 この信号機のところにくると、両の手を合わせて拝む気持ちになるんじゃが、今のお前さんたちには分からんかも知れん。