<機転>

A:「学生時代には寒くなると、みんなで材料を持ち寄って鍋をやったもんだ。」
B:「君は鍋奉行をやったの?」
A:「ときどきはね。
  あるとき、みんなでわいわい鍋を囲んで食べてて、
  だいぶ底の方が見えるようになったとき、茶色い羽根のはえた小さい生き物が出て来たんだ。」
B:「それで?」
A:「みんなは目を疑ったよ。誰かが機転を利かせて、一言いったんだ。」
B:「なんて?」
A:「コオロギ、ってね。他の連中は妙に納得して、また食べ続けた。」
B:「君はどうだったの?」
A:「僕の場合は別の可能性を確信してたから、もう食べなかった。」
B:「どうして?」
A:「コオロギの味ではなかったからだよ。」